毎年恒例だった珠希のお墓参りは、大阪に来る前に行って来た。

そんなことで済ませれないことくらい解っている。
それでも、息子達の試合が大事だと思ったのだ。

勿論、セコンドの仕事を全部休みにしてもらう訳にはいかない。
でもオーナーが気を遣って、関西地方の興業を中心に組んでくれたのだ。


それは秀樹と直樹の本気を正樹が応援するため頼んだものだった。


まだ海の物とも山の物とも付かない頃から、考えていたものだった。


でも本当は……
正樹は、もし松宮高校野球部が甲子園に行けなくても、美紀のルーツ探しだけはしようとしていたのだ。


あの昭和四十五年に起こった乳児誘拐事件を知ってからと言うもの、正樹の頭の中から大阪の文字が消えない日はなかったのだった。

プロレスの試合は大抵夜だった。
だから正樹は両立することが出来たのだ。





 無料で使用出来る、筋肉増強マシンの置いてある体育館近くのお寺に珠希のお墓はある。

正樹は子供達と歩いて其処に行った。


お墓の前には既に沙耶がいた。

沙耶が、家族の留守の間に珠希のお墓を守りたい言い出したからこの合同お墓参りが実現したのだった。


(――珠希。沙耶さんと二人で応援してくれよ。でも、出来ることならお前を一緒に連れて行きたい……)

正樹はそっと提灯を取り出した。

お盆のお墓には魂は居ないと言う。
提灯と迎え火によって家に戻るからだ。
だから正樹は敢えて提灯を用意したのだった。




 (――せっかくああ言ってくれてる沙耶さんには悪いけど、良かったら一緒に行かないか? お前だって見たいだろう、息子達の晴れ姿を)

正樹はそう思いながらろうそくに火を灯し、お盆用の丸い提灯にそれを移した。


「まだ早すぎるけど形だけでも」
言い訳だと解ってる。
それでも、そうせずにいられなかった。
珠希だけを此処に残すことなど出来なかったのだ。
沙耶には悪いけど……


(――提灯は持って行くよ。でもは火は心に灯すからな。だから一緒においで)

そう念じながら、沙耶を見た。
後ろめたさからか、正樹には沙耶が悲しそうに映った。