和室の横から顔を出した正樹は、鍵を掛けるために玄関へとやって来た。

白い花と盛り塩がイヤでも目に入る。


「鬼門の玄関か……」

見る度に呟く。
同じ言葉を何度言ったことか。
その度美紀を、子供達を悲しませてきた。


「自分が運転さえしていれば……」
今日もそれを言う。
子供達の前では絶対言わないと誓った言葉を。


階段下のドアを開けて、仏間に入る。

子供達が登校した後、心静かに遺影に向かう。
正樹と珠希の何時もの会話時間だった。


――シュッ。

マッチを擦り、線香に火を付ける。


「なあ珠希、この頃の美紀、二人に似てきたと思わないか?」

そう言いながら遺影に目をやる。


二人と言うのは、産みの母の結城智恵と育ての母の珠希のことだった。


「早いもんだな。あれからもう十八年か」

正樹は三人の産まれた日のことを思い出していた。




 陣痛が始まり免許取り立ての正樹の運転で病院へ向かっていた。

正樹はそれまで助手席専門だった。
でもそれで良いと思っていた。


プロレスの試合の時は、バス移動だった。
家では自転車。
それで困らなかったのだ。


プロレスのことだけ考えていればいい。
珠希にもそう言われていた。
でも産まれて来る子供達のために取得しようと決意したのだった。

珠希のお腹の中に、複数の命が宿っていると解ったからだった。


病院へもう少しという時だった。
目の前をフラフラと歩く女性を発見して車を止めた。

急いで二人が駆けつける。
でも女性は手を払いのけ、尚も進もうとした。
そして力尽きてとうとうそのまま道路にうずくまってしまった。

女性は息も絶え絶えの中大きなお腹をさすっていた。


すぐに公衆電話を探して救急車を呼んだ。

そして到着を待つ間必死に呼びかけた。