美紀は暫く祖父と暮らすことにした。
祖父を一人にはしておけなかった。

姉が殺しかけた妹。でもその妹の娘は、たくましく優しい子供に育っていた。


――夢をありがとう――

祖父は正樹に感謝の言葉をノートに書いた。

正樹はそれを見て泣いていた。


――美紀ちゃんの好きな人は誰?――

正樹の目を盗んでこっそり祖父が聞く。


「うふふ、ないしょ」

美紀はそう言いながら正樹を見つめた。


真っ白いチャペルで鐘が鳴り響く。
タキシードで決める秀樹・直樹・大・正樹。
ウエディングドレスの美紀が、祖父にエスコートされて歩いてくる。

跪いて美紀を迎える四人。


「パパ愛してるよ!」
美紀が正樹の胸に飛び込んでいく。


(――あれっ!?)

正樹との結婚式を想像しながら美紀は頭を振った。


美紀はそっと祖父を見た。


祖父は優しそうな眼差しを美紀に向けて笑っていた。

きっと久しぶりに笑ったのではないだろうか?

その日……
笑い声は途絶えることはなかった。




 高校野球が開幕した。


「我々はスポーツ精神に則り……」

緊張で震えながらキャプテンの直樹が宣誓する。
張り詰めた心意気が伝わってくる。

美紀は手に汗握っていた。

大会歌、栄光は君に輝くが始まる。

この後すぐ、開会式を終えたばかりの第一試合が秀樹と直樹の初舞台となる。

秀樹は大きな深呼吸をしてマウンドに向かった。


「兄貴ー! 大! みんな頑張れ!」

美紀の応援で俄然活気付くナイン。
ガッツポーズで応えた。


でも美紀は正樹を見つめていた。

これから大事な第一戦だと言うのに、美紀の頭の中は正樹でいっぱいだった。


(――あー! 何遣っているんだろ私。

美紀は慌ててグランドを見つめた。