美紀の父親が人気ロックグループαのボーカルで、結城智恵を庇ってファンに殺されたと告げられた主人は床に突っ伏した。

美紀が心配して直ぐ駆けつける。

美紀は主人の上体を起こし、その全身を支えた。

主人はそれを頼りに、やっとソファーに座った。


――悪夢だ――

主人は泣いて、それしか書かなかった。

いや書けなかったのだ。

美紀の父である結城真吾を殺したのは、主人の実の娘。
智恵の双子の姉だったのだ。


それはまさに運命の悪戯としか言い様のない、双子の姉妹の辿らされた軌跡だったのだ。




 駅に放置され、親に捨てられた真吾。

勿論両親を恨んでいたことは否定出来ない。

それでも温もりが欲しかった。

自分が何処で生まれたかも知りたかった。

孤児院育ちを公表したのは、同情してもらうつもりではなかった。

でもそれで多くのファンを獲得したのは否めない事実だった。


真吾はただ、本当の親を見つけて文句が言いたかった。

そしてお礼も言いたかったのだ。

あの場所に放置してくれたからこそ、愛する女性、智恵と巡り会うことが出来たのだから。

真吾はそれほどまでに智恵を愛していたのだった。




 天涯孤独なロックシンガー。

それが何時の間にか一人歩きを始めた。

それは勿論、真吾が希望したことではなかった。

全て、事務所サイドが勝手にやったことだった。


でもそのことにより、彼の歌声に涙がするファンが急増することとなったのだ。


彼の甘いマスクと歌声が拍車を掛けたことは間違いのない事実だった。


だからより一層のファンを獲得しようとして智恵との私生活はオフレコになったのだった。