美紀はソフトテニス部のエースになった。
でもそれは珠希から受け継いだ物でない事は美紀自身が感じていた。

美紀は努力した。
全てがその賜物だった。


珠希が実母でないと知った高校の入学願書。
中身を見た時、余りのショックに立ち上がれない程だった。


でも……
心の片隅では……


夢が叶うかも知れないと喜ぶ自分がいた。


そうパパのお嫁さんになると言う、小さい頃からの夢が……




 「あれっ、其処で良いのか?」
正樹が寂しそうに言った。


「此処なら思いっきり眠れるからね」
美紀が嘘をつく。


(――パパあれは、此処はママの席だから乗っちゃ駄目って言ってるようなもんだよ)

そう思う。
でも美紀はこの機会に、此処でこれからの自分の生きる道を模索しようと思っていた。


大阪で誘拐された女児が美紀の母だとしたら……


美紀は正樹と離れるのが怖かったのだ。


(――誘拐犯が狙うような家庭だ。きっと裕福なんだろう。

――もし本当に其処が母の実家だったら……

――もしも私が欲しいと言われたら……)


美紀は何時の間にか泣いていた。

美紀にって正樹と離れることは死にも等しかったのだ。


(――後部座席で正解だったかな。

――パパに見られたら、きっと心配するから……)

美紀はそっと涙を拭いた。




 車は順調に高速走っていた。


「疲れないか?」
後部座席をミラーで確認しながら、正樹が言う。

美紀は寝ていなかった。


「ううん、大丈夫」
そう答えてみた。

でも本当は大丈夫ではなかった。
どうしてもあのチャームに目がいく。
そして仲むつまじい、正樹と珠希の面影と重なる。


あの時のキスが脳裏を離れない。


(――私も……
愛されたい……)


美紀はもがいていた。
自分が何故こんなにも、正樹が好きなのかも知らないままに。