スポーツが中心な家族。
その体力と気力作りをサポートするためだったのだ。

食事スペースを邪魔にならないカウンターにしたのもそんな思いがこもっていた。

お腹を空かせて帰る子供達のために、キッチンはコンパクトにまとめられていた。

長のれんをくぐると直ぐにある冷凍冷蔵庫は観音開きで、側面を壁側にしてあった。
左手のドアには食品。右手のドアには手作りドリンクが並べてあった。
練習を終えて帰宅した子供達が、冷蔵庫に回り込まなくても良いようにと考えた珠希の知恵だった。


麦茶、蜂蜜ドリンク、紫蘇ジュース。
それらは子供達の成長を考えて、極力市売品避けた親心だった。


駐車スペースは将来のために、3台分あった。
その残りの庭で家庭菜園もしていた。

其処にはジュースのための紫蘇、味噌汁のための薬味もあった。

家族で育てた新鮮な野菜で作るサラダ。
それも珠希の笑顔と共に元気の素となっていた。




 二階には三部屋あった。

階段を登りきった所にある僅か一畳程の廊下に四つのドア。
その一つが、ルーフバルコニーに繋がっていた。


夜は星や花火見物。
昼は洗濯物干場やバーベキュー。
此処は多種多様のイベント会場にもなっていた。

プロレスの試合で体を酷使している正樹のために、くつろげる空間造り。


それが珠希の一番の仕事だったのだ。


その珠希が交通事故で突然亡くなって以来、それが美紀の仕事となっていたのだった。




 「どけどけ!」
玄関で秀樹が直樹を押しのける。

二人の何時も朝の出発風景だった。


勢いよく飛び出した秀樹。
それに続く直樹。


――ガタン、バタン。

秀樹と直樹が慌ただしく自転車で出発して行く。


「自業自得よ!」

美紀は玄関で、二人の背中に声を掛けた。


玄関の横には六畳の和室があり、仏間になっていた。

美紀・秀樹・直樹の三兄弟は同じ日に産まれた三つ子で、その母・珠希の遺影と位牌が仏壇にあった。


「それじゃママ、行って来るね
美紀は仏壇の前に預けていたテニスラケットをスポーツバッグに入れながら言った。


「パパー、戸締まりお願いね」

今度はリビングに向かって声を掛けた。
正樹が其処でトレーニングをしていたからだった。


美紀は自転車の前籠にバックを乗せて出発した。