学校では秀樹の豪速球が加速していた。
今年こそ甲子園に行こう!
を合い言葉に、気持ちを高め合ってきた秀樹と直樹。
恋のライバル度もヒートアップしていた。

一人だけ取り残された観の大は地団駄を踏む。


「お前ら兄弟だろー!」
とわめき散らしては二人を困らせていた。


三つ子が双子となり、兄弟が恋のライバルになる。
そんなスキャンダラスな関係を学校は放っておかなかった。




ましてや直樹は生徒会長なのだ。
見本にならなければいけない立場の人間なのだ。

厳重注意が二人に下る。
大が騒いだのはこのためだった。
しめたと大はほくそ笑む。

恋愛バトルは無法状態に移行していた。




 困り果てた正樹は、三人に休戦を提案した。
その情熱を持って甲子園を目指せと説得した。


「私を甲子園に連れてって!」
と美紀も一役かったことで、大は渋々承諾した。


「私がソフトテニスで負けたのは、兄貴達と一緒に甲子園に行きたいからなのよ」

言ってしまってドキンとした。


「だって、ハイスクールジャパンカップで家を空けられない。私は兄貴達にベストコンディションで戦ってほしかったの」

言い訳だと解っていた。

でも大は肩を震わせていた。


「美紀の気持ちは解ったな。それだけお前達に勝ってもらいたいんだよ。はい大君手を出して。さあお前達も」

正樹はそう言いながら、自分の手の下で三人の手を重ねてさせた。


「さあ、休戦協定完了」
正樹はみんなを諭すように言った。




 (――ママ、これで良かったの?)

負け惜しみだと解っていても意地を張りたかった。
本当は、力不足で負けたのだ。
そのことは美紀が一番解っていた。

それなのに、恩着せがまし発言をしてしまった。

美紀は落ち込んでいた。


(――ママ。やはり悔しいよ。

――だから兄貴達には勝ってもらいたいの。

――甲子園に行く夢を叶えてほしいの。

――私を連れて行ってもらいたいの。

――でも……
あの発言は酷かった)

それは美紀の本心のようだった。

でも美紀は複雑だった。
大と秀樹と直樹。
それぞれに思われて……

そのうち、この三人の内の誰かと……

正樹のことだから、きっとそうする。
美紀はそれが怖かった。

それが一番怖かった。