「不躾な質問ですが、彼女の旦那さんってどのような人だったのですか?」
正樹は一番聞きたい質問をした。


「あの子も駅で保護されたと聞いているわ。二才年上だったのかな?」
元施設長は、手持ちのアルバムを出してきた。


「同じ時期に此処で出会ったのよ。彼は三歳児だと思われた。駅のホームに置いてきぼり。母親の顔が判断出来年頃でしょう? きっと辛かったと思うわ」

涙で声がかすれる。


「ごめんなさい。この頃涙もろくなっちゃって。似たような境遇だったから二人はいつも一緒にいたわ。まるで兄妹のようだった。智恵さんは乳児院から此処へ移されて心細かったのね。彼にベッタリだったわ」




 そう言いながら、新聞の記事のストックの中から一枚を取り出した。

それには美紀の本当の父親・結城真吾(ゆうきしんご)の死亡記事が載っていた。


「えっ!? この男性は確か……」


「そう、ロックグループのボーカルだった結城真吾。彼よ」


「確か熱狂的なファンに殺されたと聞きましたが……」


「ええ、確かに。でも、本当のことは判らないのですよ。何故だか、裁判も無くなって……。オマケに智恵ちゃんまで亡くなってしまったから、私どもも判断が付かなくて」
元施設長は苦しそうに言った。




 結城真吾は元施設長が名付けた名前ではなかった。
智恵と結婚しようとした真吾自身が選んだ名前だった。
同棲中から。
デビューする前から。
彼はそう名乗っていた。


誰もが本名だと疑わなかった。
でもそれは、それを本名にするための手続き。

真吾は智恵と結婚したかったのだ。


(――そうか。旦那は智恵を愛していたんだ。

――だから結城真吾と名乗ったんだ)

正樹はホッとした。
智恵を蔑ろにした訳ではない。
でも自分は珠希との愛に溺れた。

二人でプロレスラーになる夢に邁進した。

智恵にすまないと言う気持ちはあった。
でも、何もかもかなぐり捨てて尽くしてくれる珠希を愛さずにはいられなかったのだ。