「えーっと、結城智恵さん…… あ、あったわ。こちらの方ですか?」

施設長が差し出したアルバム。そこには中学生の彼女がいた。

「私の母が名付け親なんです。出身地が茨城の結城でしたから。実は母は此処へ移る前は乳児院に勤めていました。そこで結城智恵さんと出会ったようです」




「彼女はいつも、『本当の出身地はコインロッカー』って言ってて。詳しい話を伺いたくて来ました」


「ああそれなら」

施設長は暫く席を外し、結城智恵の資料とアルバムを持って来た。


その中に挟んであった古い新聞記事を正樹に差し出した。
それは正樹の産まれた年・昭和四十五年の物だった。




 "コインロッカーに乳児"のタイトル。


「この乳児が結城智恵さんです。この年大阪万博があって、コインロッカーの需要が高まり沢山作られたと母に聞きました。でもこのようなケースも発生し、母は嘆いていました」


施設長はそう言いながら、当時の彼女の写真付きの資料を出してきた。
親を探し出す為なのか、手や足などの特徴が細々と書かれていた。


「美紀似てる……。やはり美紀は母親似なんだな」
正樹がしみじみと呟く。


(――そうだよな……
だから俺は美紀に智恵を見ていたのか?)

何だか解らないけど、何となく正樹は納得した。


「ところで、彼女の親見つかったんですか? あっそうか。見つかっていたら此処には」


「そう、此処にはいなかったかも」

正樹は資料のコピーを受け取りながら、結城智恵を思いながら深々と頭を下げた。




 正樹は新聞記事と資料のコピーを受け取り施設長の母親が住んでいると云うアパートに向かった。




 「結城智恵さん? ああ良く覚えているわ。コインロッカーに捨てられていた。でも初めの頃で救われたの。きっとコインロッカーの使い方知らなかったのね。鍵がちゃんと掛かっていなくて、泣き声に気付いた」
元施設長の声が止まった。
正樹は見ると元施設長は泣いていた。


「あんな……あんな可愛い子を平気で捨てる親がいたなんて……本当に信じられない事件だったわ」

正樹の差し出した資料を見た元施設長は、再び涙を流した。