「締まって行こう」
後衛も気配を察して声を掛ける。


「オーライ。頑張って行こう」
サーブ位置で美紀はボールを上げた。
珠希の学生時代に勤しんできた軟式テニスとは 違い、前衛もサーブをする。
これが今のソフトテニスだった。


「ワンスリー」
審判がサーバーに得点が入ったことをコールした。


「よっしゃー、挽回するぞー」
美紀は小さくガッツポーズをした。


準決勝は結局美紀達の勝利だった。
後は決勝戦。
勝てば全国大会。
でも、美紀は結局敗れ去った。

相手側が強かった。
そう言ってしまえば聞こえはいい。
だが美紀には解っていた。
甲子園に行こうと頑張っている兄達を応援したくて実力を発揮出来なかったことが。


(――絶対言えない。

――そう、実力が無かっただけなんだから)

美紀は自分を戒めた。




 『レディ』
突然、さっき幕が切って落とされた決勝戦が脳裏によみがえった。

美紀のチームはジャンケンには勝ったが言い当てられなくて、サーブ権は相手側に与えた格好になってしまったのだ。
それが負けた理由だと思っていた。


(――どうせなら……
全て勝ちたかった。

――勝って有利に進めたかった)

美紀は初戦のスマッシュが忘れられなかったのだ。


そんな思いが敗戦へ誘ったのだろう。

それでも美紀は頑張ったのだ。
頑張ったつもりだったのだ。


美紀は負けた。
完敗だった。

でもそれを珠希の思惑だということにした。

それを言い訳にしようと勝手に決め付けたのだ。
単なる誤魔化しにすぎないことは美紀だって解っていた。


(――ママごめんなさい。本当は私が負けたいと思ったの。それなのに……、ママのせいにして)

美紀は珠希の形見のラケットをいつまでも抱き締めていた。