後衛のサーブはリターンされて美紀の後方へと飛んで行く。

後衛がこれを上手く処理してラリーに繋げた。
後はタイミングを見てスマッシュで決める。


「ワンゼロ」
主審の声が会場に響き渡った。
サーブ権のある選手が勝った場合得点は頭に付く。

硬式テニスのヒフティラブとは違い、ワン・ツーと発言する。

ワンゼロとは、サーバーに得点 が入ったことを意味していた。

同じ得点になった時はオールとなる。
ワンオール、ツーオールとなり、スリーオールでデュースになる。
デュースになった場合、先に二ポイント連取した者がそのゲームを制したことになる。


試合は全部で七ゲーム。
四ゲーム先取した者が勝者となる。




 美紀は珠希が乗り移ったかのようなスーパープレイを連発した。
面白いように決まるスマッシュ。
勢いに乗って出したラケットが、エースになる。
一日目は絶好調だった。
美紀達は翌日の試合にも出場出来ることになった。




 美紀は本当は負けたかったのだ。
その原因は秀樹と直樹にあった。
もし決勝戦で勝って全国大会の出場が決まったら、野球の応援に行けないからだった。


そんな気持ちでプレイをしても結果が良いはずがない。
昨日とは打って変わって絶不調。
でも……それでもいいかと開き直った。


(――せめて決勝戦まではいきたい)
それでもそう思う。
美紀はまだ本当は諦めてはいなかった。


(――此処で諦めたら、ママの名前に傷が付く。

――そうだよ。
私は長尾珠希の後継者なんだ。

――ママに夢続きを見せてやるんだ)

美紀の脳裏に正樹の入院していた病室で珠希のラケットを抱き締めた記憶がよみがえった。


(――あの日私は、ママと同じ道を歩こうと決意した。

――でもそれはママではなく……
私自身のためだったはずだ)

珠希の道を自分の夢とした時点で、それは既に自分の一部になっていたのだ。