それでも直樹は屈せずに、それをバネにしてチームワークを勝ち取ろうとしたのだった。


時には炎天下での草むしりも命じられる。
その機会に、グランド整備をやってのける。
ローラーでの地盤固めやトンボでのならしなどだ。

それは少年野球団で培ったスポーツ精神だった。


『一礼に始まり、一礼に終わる』

そう教えてくれた監督。
それはグランドに対する礼儀だった。


直樹は頑張り抜いた。
だから、野球部の部長になれと言われたのだ。


生徒会長でもある直樹。
キャプテンなんて無理だと思っていた。
でも全てが秀樹の一言で決まる。


『俺は野球に集中したい。だからキャプテンは任せた』
だった。




 大はマウンドをトンボでならしながら、美紀の笑顔を思い出していた。

ベースを回収する時、自分の影にドキッとする。
隣に美紀の影を想像して、高揚したためだった。


大は確実に美紀を意識していた。
それは時間と共に増大していく。

それはもう自分でも止められない。
大はこの恋にのめり込んでいく自分を感じていた。


練習後は、野球部全員でボール・バットなどの備品を磨く。

今までは担当者が中心になりそれぞれにチェックしていた。


それは、いくら朝練だと言っても手を抜かないと言う暗黙のルールになった瞬間だった。
野球部全員で甲子園を目指すと、決意を新たに走り出す。

新生野球部の誕生した瞬間だった。




 部室に道具を全部しまった後で練習用のユニフォームを脱ぐ。
その時直樹は背中に殺気を感じて振り向いた。
其処に目をギンギラに輝かせた大がいた。


(――あちゃー!

――大に何ていえば……)

直樹はドギマギしていた。


「おいどうだった?」
大が直樹に詰め寄る。


「何が?」
直樹がとぼける。

「何がって、美紀ちゃんのことに決まっているだろ。ちゃんと伝えてくれたんだろ?」


「ああそれね。まだだけど。なあそのことで後で話があるんだけどいい?」

大は頷いた。


「美紀ちゃんって可愛いなー。そうだろ直」


「べ、別に」


「あっそうだった。お前等兄弟だったな〜」
何も知らない大は含み笑いをしながら、部室を後にした。


大の後から部室を出た直樹が鍵を掛けてキャプテンとしての使命を果たす。


「大に何て言おう」
教室に向かう足取りは重くなっていた。