直樹は風呂に浸かっていた。
どういう訳か、脳裏に浮かぶのは美紀のことばかりだった。

実は今日、帰り道で直樹は大に告られていたのだ。

美紀に玉拾いを冷やかされた時、急に恋心が目覚めたと大は言っていた。

そんなことがあったからこそ、直樹は自分を見失ってしまったのだ。


「ふうー」
溜め息を吐きながら、湯船に体を沈める。


(――何だろうこの気持ち?

――まさか!?

――まさか恋かー!?)


「兄貴、ちょっといい? 大のことなんだけれど」
脱衣場に来た秀樹に直樹が声を掛けた。


「大の奴、美紀に恋したんだって」
直樹はストレートに秀樹にぶつけた。


「大が?」
秀樹は思わず吹き出した。


「そんな柄じゃねえだろアイツ」
秀樹は肩を震わせ笑っていた。


「そんなに笑っちゃ可哀相だよ。アイツは本気なんだから」
そう言いながら自分も笑っていた直樹。
目前に恋のバトルが迫っているとも知らずに。




 「みんなー! ご飯の支度が出来たわよー!」

いつものように朝が来る。

昨日眠れなかった秀樹と直樹。それでもすぐに飛び起きる。

「へー、やればできるじゃん!」
美紀の言葉が妙にくすぐったい。

秀樹と直樹は何も言わずただもくもくと食べていた。

「ご馳走様。おいしかった!」
美紀に対して、素直に言える感謝の言葉。

母が亡くなって以来ずっと朝食を作ってくれた美紀。

女の子なんだから当たり前だとどこかで思っていた秀樹。

今改めて美紀の存在の大きさに気付かされていた。




 朝練にも力が入る。
寝不足も美紀の笑顔が吹き飛ばした。

秀樹と直樹は誰よりも早く部室にいた。


備品の手入れや、整備。
やることはいっぱいあった。

他の部員がやって来るまで二人は無言だった。

何となく気恥ずかしかった。
昨日のモヤモヤした気持ちが恋だと気付きながら、どうすることも出来ずに持て余していたのだった。


「基本は走り込みとウォーミングアップだ」

やっと集合した部員の前で一席ぶった後で、秀樹が率先して柔軟体操を始める。


「二人一組になって!」
直樹もそれに乗る。