ドアをそっと開け、美紀が自分の部屋に入るのを確認した正樹は直樹を部屋へ迎えに行った。


沙耶に指摘され、正樹は舞い上がっていた。

秀樹に聴かれ、更に動揺していた。


益々美紀の存在が大きくなるのを感じて怖くなった。


愛してはいけない美紀を愛してしまいそうな正樹。

親としてではない。
それは寂しさを紛らすためのように思えていた。

珠希のいない寂しさを。


今朝見た美紀は珠希そのものだった。

何故育ての親の珠希にあれほど似ていたのだろう?


その答えは出ない。
でも、そのことで……


美紀を益々意識する羽目になる。


正樹はそれが怖かった。


『大きくなったらパパのお嫁さんになる』
美紀は確かにそう言った。


それを口実に……
美紀を愛してしまいそうな正樹だった。




 直樹は机に向かって勉強中だった。

真面目な直樹はその人望がかわれて、クラス全員から生徒会長に推薦された。


(――珠希に似たのかな?)


正樹は時々そう思う。
直樹は正樹にとって、格別な存在だったのだ。


「何だよ。ずっと其処で何してるの?」

直樹の一言でやっと我に帰った正樹。


「ちょっと話があるんだ。下に来てくれ」

それだけ言って、又仏間に戻って行った。




 正樹は直樹を、仏間の前で待っていた。

そしてやって来た直樹を、仏壇の前にいた秀樹の横へ座らせた。


――シュッ

マッチを擦り、珠希の位牌の前に供える。


「珠希……いいかい。これから話すよ」

その正樹の言葉で、緊張する秀樹。

その姿を見て、直樹も緊張した。


「ごめん。お父さん嘘をついていました。美紀とお前達は本当の兄弟じゃないんだ」


「えっ! ウソ!」
直樹が声を張り上げる。
秀樹はすぐに直樹の口を手で塞いだ。


「知ってたのか兄貴」
うなづく秀樹。


「でも、さっき知ったばかりだ。ショックだったよ」


「そうか。それで様子がおかしかったのか」

直樹は秀樹の顔をマジマジと見つめた。
秀樹はくすぐったそうに視線をそらせた。