美紀がソフトテニス部のキャプテンを引き受けた本当の理由は、早目に帰るためだった。


珠希の代わりになって、家族のために働きたかったのだ。


だから自ら率先して短時間の集中トレーニングを実践していたのだった。


それは部員の親からも好評だった。
年頃の娘に夜道帰らせたくなかったからだった。




 五年前の春。珠希は亡くなった。
今日はその珠希の誕生日だったのだ。




 国体の選手だった珠希は健康そのものだった。

突然の事故が珠希の命を奪った。

中学で本格的にソフトテニスを始める美紀のために、正樹とラケットを探しに出た珠希。

練習用のラケットは持っていた。
でもそれは公式戦では使えない。

試合で使うマークが無いからだった。


公式戦ではプレイ前にラケットトスをする。

まず審判にそのマークを示してからヘッド部分を下に付け回して先行後行を決めるからだった。


挨拶の後、両チームの片方のプレイヤーがジャンケンをする。

負けた方はラケットの公認マークを相手に示してからラケットのフレームを下にしてコート上に立てて回す。

ジャンケンに勝った方はラケットがコート面に倒れる前に表か裏かを指定する。

公認マークを表として、ラケットがどちらの面を向けて倒れるかを言い当てるのだ。

そのためにこのマーク付きのラケットが必要だったのだ。


そのラケットを購入するために、珠希と正樹は出掛けたのだった。


正樹が今でも悔やむこととなる、珠希の運転で……




 その時だった。

センターラインを大きくはみ出した大型トラックと衝突してしまったのだ。

運転手が、落とした携帯電話を拾おうとしたために起きた事故。

一瞬目を離した時の脇見運転が原因だった。

正面衝突。
即死だった。

助手席にいた正樹も、全身打撲で生死の堺をさまよった。

幾度となく、死の淵に立つ正樹。

その度、呼び戻そうと必死な兄弟。

正樹はそんな兄弟の懸命な看病によって、一命を取り留めることが出来たのだった。

でもそれだけではないことは正樹本人が一番理解していた。