まさか、中村さんが忍冬の君だったなんて……


『あれは五月の最終日曜日にゴミゼロ運動に参加していた時だったな』

俺はその後に続いた中村さんの言葉で、その事実を確信した。

あの時の少女の髪は、今の中村さん同じように赤っぽかった。
染めているのかと思ったくらいだ。
だから新鮮だった。
だからすぐに見つかると思っていたんだ。


でも居なかった。
学校にも、近所にも。
だから俺……
すっかり忘れてた。
それだから美紀に全力でアタック出来たのかも知れない。


俺は美紀を本気で愛してた。
だから今更言えない。

ずっと探し続けていたなんて言えるはずがない。

だって中村さんは、俺が美紀にぞっこんだった事実を知っている。
同じ高校だったのだから噂は耳にしたはずだから。

でも……
だとしたら俺、何で気付かなかったんだ?


中村さんは俺の先輩だったけど、大阪で再会した時知り合いだと解ったくらい印象のある顔立ちだったはずなのに。




 俺は知っていたんだ。
本当は解っていたんだ。
美紀が、どんなに親父を思っているかを。

アイツの態度を見れば判るよ。
俺達三人なんて眼中にないことが……

それでも俺は諦めたくなかったんだ。
美紀を親父に取られることを阻止しようと躍起になっていた。

大も秀樹も多分同じ気持ちだと思う。
親父以外なら誰でも良かった。
勿論俺を選んでくれたなら最高だったけどね。




 大のやつ。
勝ち目は自分にあるってずっと思い込んでいて……

でも、だからといって美紀に抱き付くなんて。
俺が親父に本当のことを言わなかったら、どうなっていたのやら。


親父が本気で大を威嚇した時、マジでビビってた。

当たり前だよな。


でも俺はあの時感じたんだ。
美紀を愛してる親父の素の部分を……




 あの後の美紀の告白は、正直言って……
もし中村さんにママが本当に憑いていても気持ちは変わらない。
そんな思いにさせてくれた。


だから俺、もう何も恐くなくなったんだ。