(――えっ!? ママだって許してくれるはずだよ。って、一体何?)

私はまだ何も知らないまま、直樹君に身を預けていた。


幸せ過ぎて意識が薄れる気がした。

その途端に、全てがどうでもよくなった。

もう何も考えられない。
何も考えなくてもいい。

私は、ただ大好きな直樹君と一緒に暮らしていけばいいんだ。

そう思った瞬間。
身も心も体軽くなった気がした。


でもそれと同時に大切な何かを思い出した。


「ヤバい。今日は日曜日だった。陽菜ちゃんが待ってる」

私は慌ててベッドから飛び起きた。




 「どうしよう直樹君、陽菜ちゃんの引っ越し手伝うの忘れていた」

急いで洋服を着替え荷物を纏めた。


慌てて玄関に行ったら、其処にはパパさんが待っていてくれた。

直樹君が先回りして、パパさんに車で送ってもらえるように言ってくれたのだった。


「忙しい人だ」
パパさんが笑っていた。


「だろ。流石ママ憑きだね」


「うん、こりゃ間違いないな」
パパさんが笑っていた。


(――ん、もうパパさんまで。私はママ憑きなんかじゃないって)

そう考えながら頭を振る。


(――私もママさんのように旦那様に尽くしたい)

私は死しても尚愛され続けられているパパさんを羨ましく思っていた。




 「ねぇ、食事していって。戦の前の何とかよ」

美紀ちゃんはそう言いながら、カウンターに案内してくれた。


其処で目にした物に私は物凄く驚かされた。

パンプキンスープにオムレツ。
それは私が何時も大阪で用意していた物だった。


(――もしかしたら本当にママ憑き?)

そう考えながら頭を振った。


美紀ちゃんや直樹君の機転とパパさんの行動力。

そのお陰でどうにか午前中には渋谷駅まで行けそうだった。

陽菜ちゃんが地元を何時に出発するのか判らない。

それでも私は再会出来ることを信じて、電車に乗り込んだのだった。


秀樹君と大君は、直樹君の言った故郷周りをしてから帰るそうだ。

そこで私達は五時に上野駅で待ち合わせするのとにした。


新しくなった渋谷駅。
改札口で戸惑いながらも何とか外へ出た。

私達はガード脇の細い路地へと続く道を目指した。