「そんなのとっくに知ってるよ」


「えっ、嘘」


「確か長尾直樹……君? だったかな。ホラ、元プロレスラーの私の好きな平成の小影虎の息子よ。あの子が教えてくれたよ。何でも、美紀ちゃんのお祖父さんのに頼まれたとか言いっていたな」


(――直樹君は心配要らないと言ってくれてた。

――きっとこのことだったのだろう。

――えっ、でもお祖父さんって!?)

何が何だか解らない。

確か私はお母さんだと言ったはずだったのだ。




 「お母さん。私を嘘許してくれるの?」


「何言ってるの。そんなの当たり前じゃない。目が覚めたら大阪だったのでしょう? 引っ越し業者の人に攻めらて、直樹君のお母様から頼まれたって言い訳したのでしょう?」

私は母の一言一言に頷いていた。


「全部直樹君から聞いてるよ。あの子本当にいい子だね。私には嘘はつけないからって……、でも聞いた時には信じられなかったけどね。だから表面上は美紀ちゃんのお祖父さんの頼みだってことにしておいてほしいって……」

母はそう言いながら泣いていた。


「あっ、言っちゃた」
母は今度は笑い出した。




 それは確かに信じられないだろう。
新宿へ出掛けたはずの娘がいきなり大阪にいたのだから。

それも母の大好きな平成の小影虎の息子達と一緒だと言うのだから。


(――だから表面上は美紀ちゃんのお祖父さんの頼みだってことにしておいてほしいか?)

母の発言に直樹君の優しさを感じた。

だから私は少し後ろめたくなって父の遺影を見つめた。


父が生きていた頃も母は直樹君のお父さんを思っていたのだろうか?

幾ら考えても、父を看病する母の姿しか思い浮かばない。


『忍冬のように、二人仲良く生きて行ってほしい』

あの、父の言葉も真実だった。
私は考え過ぎているだけなのかな?




 久しぶりに母娘水いらず。

夜具に足を入れた途端に母の優しさを感じた。

布団が温かかったのだ。


(――ありがとう直樹君。私もうお母さんに嘘は言わなくても良いんだね。でも、又大阪に行きたいなんて言えないね)

私は母の優しさに包まれながら眠りに落ちていった。