「悪い直樹君。私日曜日に代官山に行かなくてはいけなかったの。其処でルームシェアをしようと誘ってくれた陽菜ちゃんの引っ越しを手伝う約束していたの」


「ん? いいけど、その陽菜ちゃんって一体誰?」


(――そうだよね。いきなり言われてもね)

私はそう思いながら、フラワーフェスティバルでの出来事を話し出した。


移動中に目の前で椅子に座っていた人が急に立ち上がって凄まれたこと。
その時傍にいた陽菜ちゃんと出逢ったことなどを。


「『あのー、私スイカズラの花が大好きなんです。今日の記念に貰っていただけますか?』私はそう言いながら、忍冬で作った栞をバッグから出したの。そしたら、『これ紫音ちゃんのお手製?』って陽菜ちゃんは言ったの。だから私は『スイカズラは二つの花で一つなんです。だから花言葉は友愛と愛の絆って言うんです』って言ったら陽菜ちゃんは目を丸くしたの。私は本当はこの陽菜ちゃんと代官山でルームシェアするはずだったの。でも大阪にいた。本当に何が何だか判らずに怖かったの」

私はやっと、直樹君に本当のことを話せたのだった。




 久しぶりに実家に戻った。

三月二十二日にこの家を出発した私。
約一週間ぶりの帰宅となったのだ。

まず父の小さな祭壇の前に座った。
報告しなければいけなことがあり過ぎて何から話したら良いのか解らない。

だから私はただ合掌していた。


六畳の和室に四畳半の洋間。
それしかないアパート。

母娘二人で生活していくには充分だったけど、美紀ちゃんのお祖父さんの邸宅とは違い過ぎる。

でも私は此処の方が落ち着く気がした。


母に仕事の報告をする。

でもみんな嘘だ。
第一、花屋さんで働けるだけの資格で庭師なんて出来るはずがないのだ。
でも嘘をつけないこともある。
それは大阪にいた経緯。

未だに何が何だか解らないんだけどね。


「お母さん。私嘘つきだった。目が覚めたら大阪だったの。引っ越し業者の人に攻めらて、直樹君のお母様から頼まれたって言い訳したの。それを直樹君達は真に受けて……」

私は遂に母に告白していた。

でも母は何も言わずに笑っていた。