「目が覚めたら大阪だったの。引っ越し業者の人に攻めらて、直樹君のお母様から頼まれたって言い訳したの」

直樹君が社会人野球チームの練習に出掛ける前に遂に告白した。

でも直樹君は何も言わずに私をハグした。
その優しい抱擁に心も身体もとろけそうになった。


「もう此処に戻って来られないかも知れない。だから本当は此処に残りたいの」


「心配要らないよ。中村さんのことは俺が何とかするから」

そう言いながら、直樹君がウインクをした。




 大君と二人で最寄り駅から電車に乗りでまず新大阪まで移動した。

其処で直樹君と秀樹君と落ち合う予定だった。
改札口でボンヤリしていたら、肩を叩かれた。


(――えっ!?)
一瞬誰だか判らなかった。

其処には帽子を目深に被った秀樹君がいた。


「一応ファン対策」
秀樹君が恥ずかしそうに呟いた。


「あっ、大阪だからね。それに坊主頭じゃ寒いしね」

私は妙に納得していた。


直樹君は寒さ対策のためか、パーカーで坊主頭を隠していた。

朝は確かに秀樹君と同じ帽子で出掛けたはずなのに……


「あの帽子、秀に取られた」
耳元に内緒事。

「酷いよ、秀樹君……」

私がそう言おうとしたら、直樹君に止められた。
そっと直樹君を見ると僅かに首を振っていた。

だから私も頷いた。

その態度だけで直樹君と秀樹君の力関係を理解した。

凄く凄く悔しい。
だから直樹君は悩んでいたんだ……

私はやっと直樹君の置かれた立場を理解した。

ワンマンで俺様で人の迷惑省みない人なんだと思った。


改札口を抜け、新幹線のホームに移動して自由席に乗り込んだ。


「贅沢は言えないから」
直樹君は私を気付いながら、空席を目指していた。