「それじゃ、中村さんは俺の……」

直樹君はそう言って口籠った。


私は直樹君の次の一言を待った。
何故だかとても気になったからだった。


「中村さんは俺の……、初恋の人だ」

それは思いがけない直樹君の告白だった。


『スイカズラの花言葉は友愛と愛の絆だから』

私は陽菜ちゃんとの出会った日に言った。

でもそれは、直樹君との思い出が言わせたのかも知れない。

私は今はっきりと思い出していた。

全てが直樹君との出逢いがあったからなのだと。


「ありがとう。中村さんのお陰で俺は此処まで来られたんだ」

直樹君はそう言いながら、私の髪にそっと触れた。


「あの頃もこんな感じだったね。ごめんね、気付かなくて……ずっと探し続けていたはずなのに」

直樹君は私の髪を指に絡めていた。
まるであの日の私を感じるかのように……。

私は天然の少し赤みを帯びた茶髪で、良く染めたのではないかとかわれていたのだ。




 「美紀の母親は誘拐されたんだ。この家を見て。何処から見ても資産家だって解るだろ」

そう言いながら直樹君はコの字型の家に手を向けた。


「産まれたばかりだったんだ。産婦人科の乳児室に忍び込んだ犯人は美紀の母親になる人を誘拐した。でもその赤ちゃんは双子だった。人違いしたと勘違いした犯人は、東京駅のコインロッカーに美紀の母親となる乳児を遺棄したらしいんだ」

昭和四十五年のことだそうだ。
当時は高度成長期で、次々と文明の力が現れたそうだ。

その代表が大阪万博や、新幹線とかコインロッカーだったらしい。