「お風呂に入っていたらもやもやした気持ちに気付いて……、もしかしたらこれが恋かな? なんて思ってね。でも初恋じゃないよ。俺には忘れられない人がいる。何処の誰かは知らないんだけどね」


「何だか羨ましいな。美紀ちゃんもその女の子も」


「あれっ良く解ったね、そう女の子なんだ。名前も学年も知らないんだ。探してみたけど、同じ小学校には居なかったんだ」


「あ、私にも居るよ。一度会っただけなんだけど忘れられない男の子が」


「へぇーそうなんだ。中村さんの初恋の人か? どんな人なんだろう」




 「私今までアパートでお母さんと二人暮らしだったの」
私は何故か、小学低学年の頃の忘れられない少年との思い出を語り始めていた。


「あのね、お父さんが死ぬ時に言っていたの。『忍冬のように二人仲良く生きて行ってほしいと』あ、スイカズラって、忍ぶ冬と書くのね」


「えっ!? 今、何て言った?」

気が付くと、私の両手を払い退け目を見開いた直樹君がいた。


「中村さんだったのか? スイカズラの君は……」

直樹君の言葉で私は、幼い日の出逢いを思い出していた。


「えっ!? あの子、直樹君だったの?」

私の言葉に直樹君は頷いた。




 「あれは五月の最終日曜日にゴミゼロ運動に参加していた時だったな」

直樹君は私との出逢いのシーンを語り出した。

「俺の両親は地域での交流を大切にしていたんだ。ゴミゼロとは普通五月三十日に行われる地域の掃除だけど、日曜日にやっていたよ。その時だけ少年野球団は休みなんだ」

私の脳裏にもあの日の光景がまざまざとよみがえっていた。


「病院の横の道で佇む少女がいたので、俺は『何見てるの?』って声を掛けたんだ」


「そう、私は小さな花を指差しながら『この花、忍冬って言うんだって』って言ったのよね。そしたら『あれっ、この花二つで一つだ』って直樹君は言ったの」


「うん、そうだ間違いない」
直樹君は力強く頷いた。