思わず、目頭に手が行く。
そっと、隠した指先が濡れていた。
私は泣いていたのだ。

でも誰も気付いていないようだった。


私は何事もなかったように、振る舞うしかなかった。


(――何で泣いたの?)

自問自答する。
それでも答えは出ない。

出るはずがない。
私は本当に泣く理由なんて無いのだから……


そう……
大君の口から美紀ちゃんに全員がフラれたことが発覚したから、もう悩まなくて良くなったのだ。

それなのに、私は何故泣いたのだろうか?


それはまだ、美紀ちゃんに占められている直樹君の心の闇のせいなのだろうか?


(――直樹君の悩みって、本当は何処にあるの?)






 「あっ、さっきのタラシ焼きって何処のなの?」
急に大君にフラれた。


「えっ、あー秩父です。私が小さい時に亡くなた父の故郷なんです」


「へー、そりゃ大変だったね。母子家庭ってことだろ。家は父子家庭かな?」


「もしかして、親同士が結婚してくれてたら……」
そう言いながら大君が急に泣き出した。


「美紀ちゃんは俺のものだったのに」


「ブー!!」
今度は秀樹君がブーイングした。




 ベッドでは相変わらずバタンキュー。
それとも私と話をすることが怖いのか?

眠る前に目も合わせてくれなかった。


社会人野球チームの練習から帰って来た時、直樹君は明るかった。

私のタラシ焼きに食いついて、フライに飛んだ大君。

でもその後の思いがけない直樹君の故郷を思う心に驚ろかされた。

きっと無理に大君の話題に乗ったのだと思った。
美紀ちゃんを巡る三人のラブバトルを私に聞かせなくする配慮だったのかも知れないけど。


(――ねえ直樹君。そんなに美紀ちゃんのことが好きだったの?

――後輩の憧れナンバーワンだから判るけどね)

私は又寝付かれない夜を迎えそうだった。