美紀は知らなかった。
その矢車草が、本当は珠希のプレゼントだったと言うことを。


矢車草はなかなか咲いてくれなかった。

でも珠希はその花がどんな物なのか知っていた。
だからきっと美紀がっかりするだろうと思っていたのだ。


そこで、こっそり近くで咲いていた矢車草をもらって移植したのだった。


白い矢車草……

それは花びらが色あせたものだったのだ。
最初から咲くものではなかったのだ。


珠希はそれを知っていた。

それでもあえて白くなっていた矢車草を植えたのだった。


美紀を喜ばすためだった。
美紀をがっかりさせないためだった。


珠希は本当に優しい人だったのだ。
今更に気付く美紀。

感謝の心を伝えたい。
でも珠希は五年前に亡くなっていたのだ。




 そう……
矢車草は、大好きな母・珠希へのプレゼントだったのだ。
それは美紀の、純粋な思いだった。

美紀は珠希が大好きだったのだ。

当然父の正樹も大好きだった。


「大きくなったらパパのお嫁さんになる!」

だから、美紀は何時も言っていたのだった。

勿論、珠希から正樹を奪おうなんて考えてもいなかった。
でも本当に、正樹を思っていたのだった。

それは美紀自身にも解らない、愛と言う感情だった。

でも美紀は、それが家族愛なんだと思い込ませていたのだった。


美紀は一生懸命育てた。
玄関脇にある小さな花壇。
その一角をそのために借りて……

でもやっと花が咲いた時、美紀は泣いた。
近所の草むらで何時も見ていた花だったから……


その時珠希は言った。


『わぁ白い矢車草。この花大好きなの』
そう……
美紀の育てた矢車草には、白い花も混ざっていた。


『美紀……素敵なお花をありがとう』
珠希はそう言いながら美紀を抱き締めた。




 可憐な白い小手毬も咲いていた。
小手毬は枝を切らなければ来年綺麗に咲いてくれないと聞いていた。

だから美紀は惜しげもなくその花を摘んだ。


長尾家の庭で一番陽当たりの良い場所にある小手毬。
そのためか枝は四方八方に伸びていた。


(――暫く小手毬だけになるかな?)

そんなこと思いつつ……
花瓶を取りに玄関に入り合掌をする。

美紀は小手毬をそれに入れ、シューズボックスの上に飾った。

その花瓶の横に盛り塩を置いた。