(――何言ってるんだろ私。確かに直樹君を見つめてきた。だからといって……)

だからといって何なんだろう。
私は自分が判らなくなっていた。




 「ありがとう。そうだね。俺はプロになるために野球をやってきた訳じゃないからね」


「全て家族のためだったのでしょう? 直樹君らしいわ」


「俺らしい?」


「うん。私知ってるよ。本当は生徒会長なんてなりたくなかったのでしょう?」

直樹君は顔を上げハッとしたように私を見つめた。


「何故知ってるの? 誰にも言わなかったのに……、あっそうか一人だけ知っていたんだな……」

直樹君は泣いてそのまま俯いた。

私はそんな直樹君を又そっと包み込んだ。

でも私は、直樹君の言った本当の意味が解らなかった。

一人だけ知ってるって、私のことを言ったじゃないよね?

ねえ、その人誰なの?




 「ありがとう中村さん。俺は俺らしく生きて行かなくちゃならないんだね。秀樹のためでも、大のためでもなく」


「そう、直樹君は直樹君らしくね」


「ところで、何処まで知ってるの? 俺が生徒会長に立候補する羽目になった経緯?」

直樹君は私を見つめていた。
私は嘘はつけないと察したのだが、本当のとこは何も解ってもいなかったのだ。


「秀樹君が、直樹君に強引に押し付けたのでしょう? 野球部のために一肌脱げとか言って」
仕方なく、そう逃げた。
何故それを言ったのか判らない。
でもそれはどうやら的を射たようだった。


「ああ、その通りだよ。彼奴は面倒くさいことは全部俺に……、キャプテンだってそうだ。俺が遣れば、自分の思い通りなると思ったんだろうな『俺は野球に集中したい。だからキャプテンは任せた』
そう言ったんだ」


「でも、生徒会長に立候補した時の直樹君格好良かった。私ハート毎持っていかれた」

私はそれとは気が付かずに、直樹君に愛を告白していた。


でも、直樹君は気付いていないようだった。


「兄貴は美紀にも野球を強要したんだ。でも妹はソフトテニスの道へ行った。野球部へもし入れたとしても、甲子園には行けないんだ。高野連に加盟している高校の男子だけなんだよ。決まりがあってね。それをママに指摘されて諦めた訳さ」

私は直樹君の言葉を聞いて、秀樹君なら遣りかねないと思った。