昨日、社会人野球チームの練習から帰って来た時、直樹君は明るい顔をしていた。

でも私はそれが妙に気になっていた。

何故か無理しているように思えた。


蟷螂の卵を懐かしそうに見つめる目が、寂し気に揺れていた。


私の視線に気付いた直樹君は無理に笑っていた。


「ごめんね」
直樹君は何故か誤った。


「私には無理しなくていいよ」

私がそう言うと、直樹君の顔が強張った。


「実は……悩みがある」

直樹君は辛そうにため息を吐いた。




 「この前コーチに会えたことが嬉しくて、二人の会話をこっそり聞いていたんだ。出てくる話は秀樹のことばかりだった。その時俺は、秀樹が目立たせるための存在なのかも知れないと思ったんだ」

何時になく直樹君は弱気だった。

私は何も言うことが出来ずに、ただ直樹君を見つめていた。


でも勝手に私は両手を広げて直樹君を包み込んでいた。

直樹君はハッとしたように、一瞬私を払い退けようとした。

でもその後で、身を屈めて私の胸に甘えるように顔を埋めた。


私は突然の事態に恐れおののいた。
それでも私の手は、直樹君を癒すように背中を優しく撫でていた。




 私は直樹君のお母さんになったような心持ちだった。


「直樹君……、直樹君はどうしたいの? 自分を目立たさせたいの?」

その質問に直樹君は頭を振った。


「俺にはない。目立ちたいとか、そう言う気持ちさはないよ」


「だったら良いじゃない。秀樹君の引き立て役でも良いじゃない。私は知ってるもの。直樹君が今までどんな苦労していたかを知っているもの」

自分で言っておきながらその発言に驚いた。