朝。
昨日と同じように、雲雀のさえずりで目を覚ます。
ふと、ベッドの横に目を移す。
其処にはもう直樹君の姿はなかった。

寝袋に寝ている訳でもないらしい。

野球部の合宿で良く使用していたから、全員が此処に持って来てはいるらしいのだが。
直樹君が借りたと言う話もないようだ。


私がよろけて、頭から突っ込んだから破いたなんて言えないのかも知れない。


「それって、気遣ってくれているんだよね?」

其処にいないはずの直樹君の温もりに手を伸ばして語りかけた。


(……ん!? まだ温かい。

――もしかしたらまだこの部屋に?)

私は半分眠い目を触りながらベッドから降りて辺りを確認した。


窓から庭を眺めていると人影が飛び込んできた。

直樹君がバットを手にして素振りを始めるところだった。


窓枠に頬杖をつきながら、暫く眺めることにした。

バットの先には丸い重りのような物が付いていた。

それでも軽々と振っていた。


(――確か入社式、四月一日だったよね? あれっ、プロ野球のキャンプって確か二月で、今オープン戦だよね? きっと社会人野球も……、いいのかな? 私何か足引っ張てる感じ)




 何時までもそうしてはいられないと思い、キッチンに行くことにした。

まず茹で玉子を作る。
鍋に玉子が浸る程度の水を入れスイッチオン。
お湯が沸騰したら蓋をして止める。
暫くそのまま放置すると出来ているはずだ。

茹で麺の時にも使え、表示してある時間に合わせると良いそうだ。

又、お湯の中に入れておくと温泉玉子にもなるらしい。

これは私の母の知恵なのだ。


(――うん、私はやっぱりちゃんと見ていたんだ。だから色々と出来るんだ)

私は少し得意になっていた。