「直樹君。悪いけど調理器具探してくれる。えーと、ボールとフライパン……」

それでもそう言いながら流し台の下の取っ手を引いた。


「えっ!?」
私はその後言葉を失った。
鉄板が二枚付いたホットプレートの脇で、鉄製のフライパンが錆びていたからだった。


「うぇ、大丈夫か?」
直樹君が心配そうに言った。


「大丈夫、磨いて油を引いておくから」

私は自分の言葉に驚きながらも次々と作業をこなしていった。


フライパンを流し台に移し水を掛ける。
全部浸らせた後で磨くために。

でも何処にも道具が無かった。


「スポンジとかタワシとかあればすぐ出来るのに」

私はがっかりしながら、ダメ元で調理台の下の引き出しを開けてみた。
其処にはラップ類が数本並べられていた。


「あっこれだ!」
私は突然閃いてその中にあったアルミホイルを手にした。


それを適当にカットしてぐちゃぐちゃにしてフライパンを磨き出した。


「えっ、そんなことが出来るんだ!?」

直樹君が目を丸くする。

私は得意になって更にピカピカに磨きあげたのだった。




 幸い、他の調味料はIHコンロの脇に揃えられていた。


「えーっと、これは塩、これが砂糖。あっ、油もある。良かった。これで何とかなる」

私は早速中鎖脂肪酸の入っている油をフライパンに入れた。


「此処で暮らしていたのは美紀さんのお祖父さんだったわね。流石身体に気を付けていますね」


「えっ、何で解るの?」


「ほらこの油。身体に優しいんです」

言った本人がびっくりした。

私の口から、そんな言葉が出てくるなんて。


(――昨日からおかしいんだよね。私どうなっちゃったんだろ?)




 見よう見まねでボールに玉子を割り入れる。
良く洗った調理器具は、私の手に不思議と馴染む。


私は手際よく、人数分のオムレツを用意した。


(――私って天才かな)
テーブルを見ながら微笑んでいた。

そこへみんなが入って来た。


「おー、スゲー旨そ。あれっ……」

秀樹君がテーブルに置いてあったケチャップを手にしながら固まった。


「確か、美紀は何時もケチャップたっぷりのオムレツを作っていたな?」

そう言いながら直樹君を見る。

私が直樹君に目を移すとそっと頷いていた。