でも、何時までもそうしてはいられない。

私は言わば居候。
働かなければいけない。


ポシェットにお財布だけ忍ばせてそっとドアを開けた。

もし何も冷蔵庫に無かったら買い物に行こうと思っていた。


(――コンビニくらいあるだろう)

そうは思っても不安だった。


私は昨日、気が付いたらこの家の前に止まっていた引っ越し業者のコンテナの中にいた。

だから庭くらいしか判らない。
何処にスーパーがあるかなんて知るわけがなかったのだ。




 とりあえずキッチンに行ってみる。


ビールが三本、ゴミ箱のビニール袋の中に捨ててあった。


(――一人一本か? きっとこれを掛け合ったのかな?)

又も笑い転げた私を誰かが見ていた。


(――金髪? あ、直樹君か)

私と目が合い、慌てて視線を外す直樹君。

何か……カワイイ……


「何か探し物?」
直樹君の声にドキンとする。

夢じゃなかったんだと再認識する。

私はまだ半分は非現実の中にいた。


「ごめんなさい。起こしちゃったみたいね」

私が言うと、首を振られた。


(――やっぱり私のせいよね。朝から煩くしていたから……)




 「もしかしたら食材探してるの?」
直樹君の問いに頷いた。


「待っていて、すぐ持って来るから」

直樹君はそう言いながら、まだ片付いていない荷物の上から松宮スーパーの袋を取り出した。


「こっちに来る前にパンと玉子だけは買っておいたよ。ほら悪くならないだろ?」


私は頷きながら、直樹君の手から袋をもらった。
確かにあまり悪くはならない。でも食パンの消費期限は今日だった。


「えーと、ケチャップは何処かなー」


「オムレツ?」

直樹君の言葉に頷く。

何故だか判らない。
勝手にしゃべっていたのだ。


「そう言えば、ママと美紀も良く作っていたな」
しみじみと直樹君が呟く。

それがどんな意味かも知らず、私は微笑んでいた。


私は今まで、調理実習以外に料理なんてしたことがない。

それなのに、オムレツを作ると言う。

本当は物凄く心配なんだ。
だって直樹君に見られて冷静でいられるはずがない。