「寝られないの? ごめんな、ママのせいで」
直樹君は不思議なことを言った。


(――ママのせいって何かしら?)
私は直樹君の言葉の意味が解らず、ただボーッとしていた。


頭を打ったからでもないらしい。


「ねえ、直樹君。まだママって言っているの? 可愛いけどね」


「何だよ可愛いって」
直樹君は少し怒ったように言った。


「俺達のママは、お母さんとかお袋とか言わない前に亡くなったからね。だから何時までもママのままなんだ」

しみじみと直樹君が語る。
私はその時、昼間の行動を思い出していた。




 (――ママせい?
それって何?

――あ、私……確か。

――『すいません。私、この二人のお母様に頼まれてまして』

――って言ってた。

――だからか?

――『あー、やっぱり!!』
って言ったんだ。

――『何なんだ?』
の後で

――『ママが憑いて来た』
だから大君までもが……

――『えっーーっ又かー!!』
って言ったのか?


必死に言い訳をする私を直樹君が不思議そうに見ていた。


(――あれは一体何だったの?)

三人の顔を思い出してみる。
でも其処に答えはなかった。


(――やだな、私は中村紫音以外の誰でもない)

それでも直樹君のママならいいか、と思っていた。




 私は妄想を諦めて、目を瞑った。
少しだけでも寝ておかないと明日が辛いと思って。


朝起きたら、あれもやろう、これもやろうという思いだけが空回りする。

私は又も自ら、眠れない材料を体に取り込んでしまったようだ。


(――ふふふ、バカだね私。

――直樹君のママは五年も前に亡くなったんだよ。

――私なんかを選ぶはずがないよ)

私はさっきの想像を否定しながら、やがて訪れた眠りの中にいた。