「パパー!!」

祭壇の前で待つ正樹に美紀は声を掛けた。


「そう……私は私以外の誰でもない。結城智恵さんでも、ママの長尾珠希でもない。私は美紀。小さい頃からパパが大好きだった、ただの美紀なの!」




 「そうだ美紀! お前は誰でもない。パパが大好きな美紀なんだ!」

正樹はその両手を広げる。


「愛しているよパパ!」

遂に言えた美紀。

その言葉に涙しながら、正樹は頷いた。


「美紀ー!! 幸せになれよー!!」
やっと言えた三人。
泣きながら祖父の元へ歩み寄った。


「あ、り、が、と、う」
たどたどしく……
でもはっきりと言葉を発した祖父。
三人の頭を両手で抱え込んだ。

大はやっと、美紀への思いを封印させなくてはいけないと思った。

美紀の幸せのために……

何時も笑顔をたやさなくするために……


その時祖父は三人にメモを見せた。


――私はこのまま、ここで暮らすことにした――
そう書いてある。


「えっ!?」
突拍子のない声を上げようとした三人を慌てて押さえ込んだ祖父。
三人にウインクを送った後で美紀を見つめた。


(――三人の魔の手から美紀を守る)
祖父は新たな闘志に燃えていた。


(――それにしても良かった。

――大阪の社会人野球チームなら、おいそれと帰って来られないだろうし……)

祖父は心の中でほくそ笑んでいた。




 ――君達はそのまま、あの家で――


「えっ俺達に使わせてくれるのですか?」


――君達を信用しているから――


「でも美紀が居ない」
秀樹が寂しそうに呟いた。


――大君と言ったね。君も一緒に暮らしたら――

それを見て大は喜んだ。

確かに美紀は居ない。
でも、気の合った仲間同士で暮らせるのもいいかもしれないと思っていたのだった。


「ヒデ、ナオ。よろしく頼むよ」

大は二人に握手を求めた。


「うーん、まあ此方こそよろしく頼むよ」
二人同時に言った。


「やはり双子だ」
大はしみじみと言った。


これから三人は、大阪で暮らすことになる。

それは祖父が仕掛けた美紀のためのサプライズとも知らず、三人は大阪暮らしを夢見始めていた。