どうしても諦めきない大は、二人を引きずって駆けつけた。

当たり前だった。
正樹は本当に美紀を大に託す気でいたのだ。

大はそれに気付いていた。
だから強気だったのだ。


それでも、今更ながらに美紀の前に跪き再度手を差し伸べプロポーズをする。


「美紀ちゃんー。お願いだー!!」


「どうか、俺達を見捨てないでくれー!!」


「お母さんなんて、呼べる訳がないよー!!」

みっともない程足掻き、拝み倒そうとする三人。




 「ありがとう秀ニイ。ママのラケットを遺してくれて……優しさをありがとう」

その言葉を聞いて、秀樹は固まった。


(――やっぱり!?
知っていたのか?)

何時も明るく振る舞っていた美紀。
その陰で涙を拭う美紀を秀樹は想像していた。


「ありがとう直ニイ。私を甲子園に連れて行ってくれて……思いやりをありがとう」


(――いや、美紀。
それを言うのは俺達の方だよ)

美紀が何時も傍にいてくれたからあのホームランが打てたんだ、そう直樹は思っていた。


「ありがとう大君。アナタがいたから楽しいかった……心遣いをありがとう」


(――そう思うなら、この結婚待ってほしい)

そう、大はまだ諦めてはいなかった。




 美紀の三人に対する感謝の気持ちは嘘ではない。

でも美紀は真っ直ぐに正樹を見ていた。


「私……本当のママになりたい」
美紀はそう言うと、秀樹と直樹を見つめた。


「前から感じていたの。あなた達が可愛くて仕方なかった」


「それなら、何故? 俺達じゃ駄目なんだ?」

秀樹が聞いた?

その答えを知りたくて、直樹も大も聞き耳を立てた。


「沙耶さんに言われて気付いたの。それは、ママの想いだと。だから……パパに嫁がせて。だって……私本当にパパが好きなの」

美紀はそっと祖父を見る。

祖父は頷きながら、静かにその手を離した。