校長室に正樹と美紀がいた。
結婚式を予定通り卒業式の後に執り行うこととした報告だった。


「小さい頃から不思議でした。なぜこんなに父が好きなのかが解らずに。ただ『大きくなったらパパのお嫁さんになる』って言っていました。今思うと、全部産みの母が言わしていたのですね。それが望みのようでしたから」
美紀は智恵の書いた日記を胸に抱きしめていた。


「私母の分も幸せになります。申し訳ありませんが、兄達のこと、よろしくお願い致します」
深々と頭を下げる美紀。

それを見守る正樹。


「任せなさい!」
校長先生は胸を叩いた。




 東京駅に家族はいた。

結城智恵の放置されていたコインロッカーはどれだか解らない。

無数にあるそれら……

でも祖父はその一つ一つに手を触れていた。


美紀の祖父が卒業式に合わせて上京したと思い込んでいた秀樹と直樹。

美紀を産んでくれた結城智恵の思い出の地を巡り、感謝するためだったのかとも思った。


卒業式に出席するためだけだったらこんなに早く来なくても……
秀樹も直樹も本音はそう思っていたのだった。

だから本当は、自分達の動向を探るために来たのではないのかと勘ぐっていたのだった。


二人は、社会人野球チーム入りと美紀の大阪に連れて行きたい旨をまだ告げていなかったのだ。
だからそれを確認に来たのではないのかと思って緊張していたのだった。