沙耶に説得され、正樹は決意した。
美紀の全てを受け入れようと。

初恋の人の結城智恵や愛しい妻の長尾珠希。

もし美紀の身体に憑依していたとしても。

美紀には違いない。


(――俺は美紀が好きだ!

――もう迷わない!

――もう離さない!

――そうだ。きっとこの感情こそが愛すると言うことなのだ。

――俺は美紀を心から愛しているんだ……)

美紀を思う度心が揺さぶられる。
恋人にしたい存在でもあったのだが、愛しい我が子でもあることに変わりはない。

だから正樹は激しい感情を封印し続けてきたのだ。

どんなに苦しかったか。
どんなに美紀の存在が重くのし掛かっていたか。

正樹は今更ながらに、悪戯好きな珠希の魂を其処に感じていた。




 一時の感情に負けては駄目だと思い、美紀を拒み続けてきた。

でもそれが沙耶の言葉で白日の元にさらされた。


(――何故今まで気付かなかったのだろう?

――でも美紀は本当に自分を好きなのか?

――もしかしたら、珠希と智恵が美紀に憑依して操っていただけではないのだろうか?

――美紀。
本当に俺でいいのか?)

答えは出ない。
それでも正樹は美紀に告白することを決めていた。




 沙耶に言われて気が付いた。
珠希が美紀の中で生きていることを。
誕生日に、きっとその存在を珠希自身が示したかったのだと言うことを。


(――ごめんな。ずっと気付いてやれなくて)
正樹は、珠希の遺影に誤った。


(――美紀を愛しても良いかい?

――心の赴くままに。

――俺、駄目なんだよ。
美紀にお前を感じて以来、美紀のことが頭から離れなくて。

――だって美紀はお前そのものだったから。

――だから迷ったんだ。
だから恋しくて堪らなかったんだ。

――でも、そんなのでいいのか?

――本当に美紀を愛しているって言えるのだろうか?)


美紀を愛していこうと決めたくせに……
正樹の決意は早くも揺らぎ始めていた。