プロレスラーになりたい夢は理解している。

でもそれは自分の奥底に眠る正樹を受け入れられない部分。

一番の弱点だった。


だから……
もし本当にその考えが当たっていたら怖い。

沙耶は悩みながら、正樹を尾行したのだった。




 其処は、地元近くの集会場だった。


既に建物の脇には珠希が正樹を待っていた。
沙耶は驚き、慌ててその身を隠して様子を伺った。


二人が入って行ったのは体育館だった。
沙耶は首を傾げた。
何故此処なのか、見当も付かなかったのだ。

其処はフリーマーケットなども行われていて、何度か家族で訪れていた場所だった。


バレーボールやバスケットなどの出来るテープが貼ってあるコートと、自動販売機の置いてある休憩室以外はないはずだったからだ。




 沙耶は二人が休憩室の脇の階段に消えて行ってのを見届けてから、見学だと言ってスリッパを借りた。


その階段の先に何があるかも判らない。
だから二階に上がれるはずがない。

でもどうしても確かめたかったのにだ。




 沙耶は階段で聞き耳を立てた。

プロレスラーになる夢を珠希に語る正樹はイキイキしていた。

沙耶の心が傷む。

それはトラウマだった。
沙耶は、幾ら正樹を好きでも夢を叶えてあげられないと気付く。

又保育園時代の体験が脳裏を掠める。

正樹の父親がプロレスの技を教えなければこんな苦しい思いをすることはなかった。


今度はそれを憎んだ。
沙耶は恋しい思いを抱えたままで、珠希と正樹を常に意識して暮らすしかなかったのだった。




 市立松宮保育園。
沙耶は何時かその門の前にいた。
仲睦まじそうな正樹と珠希。
二人の姿を思い出しては頭を振る。

沙耶は何時しか泣いていた。


(――そんなにアイツが好きなの?

――もう遅すぎるよ!)

頭の中では理解している。
それでも邪魔したくて立ち上がる。

沙耶は嫉妬から悪巧みを思い付いていた。


それは珠希と正樹の恋を両親に言い付けることだった。


それで二人が別れることは無いと判っていた。
それでも恋心を押さえられなかったのだ。

その結果、更に正樹が遠退いたとしても遣らざるを得なかたのだ。


それがあの……
『私はイヤよ。同じ歳の人をお義兄さんと呼べない』

と言った真相だったのだ。