「俺は考えていた。誰も傷付かない方法を」

正樹の脳裏に大の笑顔が浮かんだ。
正樹は本気で大に美紀を託そうと思っていたのだ。


「でもね、お義兄さん。今の美紀ちゃんにはお義兄さんだけなのよ。お義兄さんしか居ないの。だって、本当にあの子お義兄さんを愛してる。だから……だから、大事にしてあげて」

正樹を説得しながら、沙耶は不思議に思った。

何故、こんなに一生懸命になっているのだろうと。


「美紀を自由にしてやろうと思ったんだ。ただそれだけだった」

正樹の話を聞きながら、あれこれ思いを巡らす沙耶。


そしてある結論に達する。


(――もし本当に姉が憑依しているとしたら、それは義兄の傍にいたいからだ。大阪に行くためじゃない。大阪に行かせたら駄目だ)

と――。




 「駄目よ! 美紀ちゃんをちゃんと捕まえてあげなくちゃ。お姉さんが憑依してても良いじゃない! 二人、ううん三人分愛してあげれば良いじゃない!」

訳の分からない感情に支配された沙耶。


不思議だった。

何故こんなにも一生懸命なのだろうと。


だって本当は、美紀に正樹を取られたくないのだ。

今でも自分は正樹が大好きなのだ。


でも……
沙耶は言い終わってから思った。

姉が……
珠希が言わせたことではないのかと。

沙耶はもう一度大きく深呼吸をする。
これで良いのかと珠希に聞くかのように。


そして再び、恋心を封印することを亡き珠希に誓っていた。


(――お義兄さんの考えは解っているわ。きっと大君に嫁がせたいのね。でも美紀ちゃんもお姉さんもお義兄さんじゃなくちゃ駄目なの。そう私が一番解ってる)
沙耶は空を見上げた。
心なしか暖かに感じた。