其処は市の中心部にある神社の裏手にあった。

月曜から金曜の九時から三時まではそれぞれの団体が使用する。
その後は、テニスコートを持たない中学の練習場へと様変わりする。

其処はそんな軟式テニスコートだった。


でも土日は一般市民に解放されていたのだ。

勿論、ネット張りからブラシ掛けライン掃きまで遣らなくてはいけない。
でも一汗掻くにはもってこいだったのだ。




 コートは四面あった。
その中の二面が公民館所属チームの練習場だ。

その他の二面は早い者勝ちで使用出来た。
だから朝はみんな早くから来て練習していたのだ。




 充分なウォーミングアップの後無心にボールを追っていると、悩み苦しんでいる全てのことが夢のように思えてきた。


(――叔母さんも楽しんでくれたら嬉しいな)
美紀は沙耶から繰り出されたボールをはリターンする度に、珠希の遺したラケットが喜んでいるような錯覚を感じていた。


沙耶は今ボールを受けている相手が姉の珠希に見えていた。

沙耶は珠希と良くこの軟式テニス場に通って、ボールを受けていたのだ。


無我夢中で走り回っているうちに力をつけていた沙耶。

沙耶も、珠希の弟子とでも言えるような存在だったのだ。




 「今日誘ってくれてありがとう」
クールダウンの終了後、沙耶は美紀に握手を求めた。
美紀が躊躇いがちに手をそっと出す。
すると、その手を強く握り締められた。


「美紀ちゃんのテニスって、お姉さんソックリなんだね」

ポツリと沙耶は言う。
美紀は嬉しい反面複雑だった。


「お義兄さんは幸せ者だな。二人の……、ううん三人の女性から愛されて」

沙耶のその言葉に美紀は思わず舞い上がった。
三人。それは、美紀の中に巣作っている二人の母と自分だと思った。


沙耶はやっと、美紀の中に珠希がいることを納得した。

そうじゃないと、あの球筋は説明出来ない。


美紀は珠希の試合運びなどは目にしてはいても、ここまで完璧に再現出来るほど伝承されていないはずなのだから……


「どんなことがあってもお義兄さんから離れてはダメよ」
沙耶はウインクを美紀に送った。
美紀の中にいるはずの珠希の魂に向かって。