「大阪か……?」
秀樹がため息を吐く。


「どうした兄貴の」
直樹が秀樹の顔を覗き込んだ。


「いや……、何でも……。でもないか……」


「美紀のことか?」

何処か煮え切らない秀樹の態度を見てそう切り出す直樹。


「ああ……、大阪にもし美紀が居たら……連れて行けたらなんて考えたんだ」


「だったら連れて行こうか?」


「ん?」


「大阪には美紀のじっちゃんがいるだろう? あの家で暮らしてもらって……」


「ん!? ……ん!? それだ!!」

秀樹は急に勢い付いた。




 二人は早速、大阪に電話した。
秀樹も美紀の祖父がしゃべれないのは知っている。
だから合図を決めた。


「美紀のじっちゃん。いいかい、良く聞いてね。イエスなら、受話器を一回叩く。ノーなら二回だよ」

秀樹は必死に説明した。


「質問第一。美紀が大阪に来たら嬉しい?」

勿論一回だった。


「質問第二。美紀と一緒に暮らしたい?」

これも一回だった。


「質問第三。俺達と一緒に暮らしてもいい?」
それも一回だった。


悪巧みだった。
美紀をパパに取られたくない。
その一点だったのだ。
それは二人の最後の賭けだった。

今回の社会人野球の大阪行きは、まさに二人にとっては渡りに船だったのだ。




 悪いことだと解っている。
卑怯な行いだと承知している。
でも必死だった。
恋しい美紀をこの手に入れるために、二人は鬼になろうとさえ思っていたのだ。


大にも相談した。
大は教師になるためにあちこちの大学を受験していた。

もう既に合格した大学もあったのだ。

その中の一校が大阪だった。


そしてどうにか大阪の社会人野球チーム入りが決まったことと、美紀と暮らすための家を確保することが出来たことを大に報告したのだった。




 虫のいい話だと思う。

大阪の美紀の祖父には大学入学のための援助を断ったのだ。
それなのに結局泣き付いた形になった。

秀樹も直樹も後ろめたさを感じたのは事実だった。
それでも、美紀を手に入れるために画策してしまったのだった。