あの運命のドラフト会議の日。
詰め掛けた報道陣が体育館に設置されたモニターを見つめていた。

学校関係者もその対応に追われながら成り行きを見守ってくれていた。


手に汗をかくほどの緊張感の中。
画面から各球団の引き当てた、選手名が次々と発表される。


名前が発表される度に一喜一憂する。

その都度それはため息に変わる。

そして又画面に釘付けになる。
ドラフト会議一巡の終了時までその重い空気は流れたままだった。


それでもまだ後がある。
ドラフト会議は二巡目以降続くのだから。




 今度は直通電話に注目する。
何時鳴るか。
その思いが強いほど、鳴らない電話が疎ましい。


胃が痛くなるほどのプレッシャーに会場全体が包まれていた。

でもそれは秀樹と直樹だけじゃなかった。
校長先生が、一番苦痛な顔をしていたのだ。


ドラフト会議の候補生に残ると思い込んで報道陣を集めた手前、このままでは済まされないと考えていたようだ。




 それでも、結局どの球団からも長尾秀樹・直樹兄弟の指名はなかった。


集まった報道陣からもため息が漏れたが、一番がっかりしたのは当の二人だった。
意気消沈したかのように俯いたままで、マトモに話せない状態だったのだ。

泣きたかった。
でも皆の前で失態は見せられない。

それは彼等の意地だった。




 大学に行くか、社会人野球に行くかは、二人の選択に任されることになった。

二人はその場で迷わず社会人野球の道を選んでいた。
正樹にこれ以上の負担を掛けたくなかったからだった。


大学に行くならそれ相当のお金がかかる。
だから是が非でもプロ野球の道へと進みたかったのだ。


でも本当の理由は違っていた。
美紀を手に入れるための結論だった。

大の家は別として、親のすねかじりの大学生が美紀と結婚出来るはずがないと考えていた故の結論だったのだ。


だから、誰の手も借りずにやってみたかったのだ。