自由恋愛の秘密

「また?つーかいいじゃん別にさぁ」

 智光があきれて言い,最後に「はぁー…」とため息をつく。

「だめだよ!あれを朝一番に食べないと,その一日がやる気でないの!何にもしたくなくなるの!」

「お前朝一番に起きてすぐパイナップル食べないとだめなんて,他に誰がいんだよ」

 …そう,私は朝目が覚めて,その後手を洗ってすぐパイナップルを食べないと気がすまない。いくらトイレに行きたくても,顔に汗をかいていて洗いたくっても,その前にパイナップルを食べないといらいらしてしまう。

 だから,冷蔵庫の中には必ずパイナップルが入っていないといけなくて。

「どうしよう…もうスーパーしまっちゃったし」

「じゃあしょうがねーだろ」

 今思えば,智光が言ったこの「しょうがねーだろ」は,怒ったりあきれていったんじゃなくて,私を慰めようとして言った,『やさしさ』だったと思う。

 でもあのときの私は,パニクってたのと,その前の智光とのいざこざで,気持ちを落ち着けて考えることができなかった。

「しょうがなくない!!」

 今にも泣き出しそうな声を出して,智光にやつあたりをする。

「…意味わかんねえし」

 独り言のようにつぶやいて,智光はリビングに戻り,ギターをケースの中に入れる。

 あっ,やつあたりしちゃった,と気がついたときにはもう遅かった。

「俺,今日は帰る」

 背中にギターを背負って出て行く智光の後姿が,なぜか『子どもを背負って実家に帰る母親』のように見えた。確かに自分の子どものように,ギターを愛してたっけ。