おかしいとは思った。
猫のような鳴き声が咲の家から聞こえたから。


高くて、甘い、声。
少し胸が疼くような、壊してしまいたくなるような、はかない声。


あれ、猫、いなかったよなあ。
風の音かな。
なんて、ばかなことを思ってた。


少し外に出ただけだと言うのに、指先があっという間に冷たくなっていた。
空はどんより曇って、太陽を覆ってた。

咲の家について、チャイムを押そうとして、窓に影がゆらめいたのが見えた。


咲?と思わず声にして窓を見た。
彼女は、窓に手をついて、豊かな胸は、苦しそうに張り付いていた。
後ろには見知らぬ男がいて、彼女の肉付きの良い腰に、自分のものを突き刺し、前後に揺さぶっていた。


「ん…っ!あ、…っ、あー!ん…っ!」
猫の、啼き声が、どこからか、わかった。



彼女の開けている口から、舌が少し見えた。
唇が少し光って、吐息が窓を曇らせた。


彼女がこぶしをにぎりしめ、開いて、次に、そっと目を開いたとき、初めて目が合った。


その時の彼女は、漫画のように、目を丸くして、男に何かを言った。
男は、俺を見て、にやりと笑い、そのまま腰を引いて数回、打ち付けた。
彼女の体は数回跳ねて、くたっと床に落ちた。

そして、そのあと、二人は幻だったかのように、素早く、窓から消えた。



そして、ドアが開いた。

彼女…咲は、唇を開いたり、結んだり。
さくらんぼのように赤かった色は、どす黒い紫色になっていた。
先ほど張り付いていた胸は、バスタオルの中でまた苦しそうに寄せられていた。


12月初旬である。
バスタオル一枚で出てくるなんて、阿呆ではなかろうか。
そんなに震えて、馬鹿じゃないか。


…出て来なければよかったのに。
出て来なければ、あれは、幻の映像だったかも、しれないのに。



なのに阿呆で馬鹿な咲は、先ほどの猫の声とはうってかわった声で、でも、少し高くて、包み込むような、いつもの、声で、

「言わないで…」

と言う。


かけたい、浴びせたい、言葉は、山ほどあった。



言えるわけねーだろ
誰に言われたくないんだよ
家族今いないからって男実家にあげるなよ
誰もが見えるような場所でヤるなよ
てか、その男誰?


全部、言葉にならなかった。
そんで、逃げ出した。


部屋に篭った。
でも。
咲の裸ばかりが目に焼き付いて、体が反応した。
あの、唇、胸、腰。
どれだけ、柔らかいんだろう。



女の子に、触れたことがないわけじゃない。
好きじゃなくていいから、付き合って、と言われた女の子相手に、一年生のときにヤった。

経験不足が大きいだろうが、痛そうにするその子のことを思いやれなかった。



女って。
あんな、声、出るんだ。
つくりもののAVだからだ、と思ってた。


クッションをベッドに投げつけたが、そのまま跳ね返ってきただけだった。