その日、俺は、母親にお使いを頼まれた。
いつものことだ。
お隣の矢田さんちに、今日は野菜を持っていけと言う。



集合住宅では、近所づきあいは思いの外大切らしい。
集合住宅といっても、新しくできたベッドタウンの一つで、一軒家の集まりである。
隣同士の間隔は非常に狭いため、下手に大声など出すと、内容が筒抜けだったりする。


俺と矢田家の娘、咲が同い年なこともあって、俺の家と矢田家は付き合いが長く、深い。
同じ集合住宅内に同い年の奴は何人かいるが、やはり咲以上に仲のいい奴はいない。



小さい頃から何をするにしてもずっと一緒だった。
いつだって、俺の家の、咲の部屋に一番近い窓から呼べば、話が出来た。
咲は、俺が呼ぶ度、「なあにー!」と、ちょっとめんどくさそうに、でも、部屋にいるときは必ず顔を出した。



小学生の頃、俺は咲にべったりだった。
人見知りする俺には、咲の存在が何より頼りにできるものに見えたのだ。
対して咲は、誰に対しても分け隔てなく、優しかった。
何より、いつも元気だった。
雪が降ると殊更だった。
だから、俺は、冬が好きだった。



高校にあがって、初めて咲のいない学校生活を送った。
それなりに充実してた。友達も出来たし、高校で一番かわいい女の子と一緒に帰って得意になったりした。

でも、やっぱり、窓から咲を呼んだ。






今、隣の家の窓に映った咲。
あんな咲、俺は知らない。
咲に手渡すはずだった野菜を、俺は気づけば咲の家の玄関に落として帰ってきていた。

「野菜、矢田さん、喜んだ?」
なんて、母親が声をかけるのも無視して、俺は自分の部屋に戻った。



あれ、何が、起こったっけ。
なんで、咲、「なあに?」って、出て来ないの?
なんで、咲、俺の見知らぬ男といんの?
なんで、咲、その男と二人で窓際にいたの?
なんで、咲、裸なの?


ーなんで、咲、その男と、ヤってんの?