「すべての悪を取り去り、恵みをお与えください。この唇をもって誓ったことを果たします」
陽が半ば以上沈んだころ。薄暗くなった聖堂で、聖羅が指を組み祈りを捧げていた。
そこには誰もいないというのに、人々に施しをしていたときと同じような、彫像のような微笑を浮かべて。
聖書から神の言葉を紡ぎ、その聖母のような表情は、石膏像のように動かない。
それは、絶対的な「静」そのものの顔だった。
「聖羅」
聖堂の扉が開き、大シスターが火種を手に、聖羅に声をかけた。
「申し訳ないのだけど、この聖堂の中央の燭台に、灯を入れてほしいの。私では背が足りないから届かなくて」
「はい」
大シスターの手にしている、ちいさな火が聖羅の頬を照らし、長い影をあしもとに作った。聖羅はゆっくりと静かな動作で立ち上がると、大シスターの手から、松明に似た棒を受け取った。
この燭台には毎日灯を入れるわけではない。特別なミサを行うときにのみ、灯を点す。
今宵はその特別な日だった。
「あれからもう半年……」
大シスターが独り言のようにつぶやいた。
それを聞いているのかいないのか、聖羅は彫像のような微笑みをそのままに、腕を伸ばし燭台に灯りを入れてゆく。
陽が半ば以上沈んだころ。薄暗くなった聖堂で、聖羅が指を組み祈りを捧げていた。
そこには誰もいないというのに、人々に施しをしていたときと同じような、彫像のような微笑を浮かべて。
聖書から神の言葉を紡ぎ、その聖母のような表情は、石膏像のように動かない。
それは、絶対的な「静」そのものの顔だった。
「聖羅」
聖堂の扉が開き、大シスターが火種を手に、聖羅に声をかけた。
「申し訳ないのだけど、この聖堂の中央の燭台に、灯を入れてほしいの。私では背が足りないから届かなくて」
「はい」
大シスターの手にしている、ちいさな火が聖羅の頬を照らし、長い影をあしもとに作った。聖羅はゆっくりと静かな動作で立ち上がると、大シスターの手から、松明に似た棒を受け取った。
この燭台には毎日灯を入れるわけではない。特別なミサを行うときにのみ、灯を点す。
今宵はその特別な日だった。
「あれからもう半年……」
大シスターが独り言のようにつぶやいた。
それを聞いているのかいないのか、聖羅は彫像のような微笑みをそのままに、腕を伸ばし燭台に灯りを入れてゆく。
