聖羅は軽く首を振って、気を取り直したように薄い布団を捲り、少しつめたいベッドに横たわったがなかなか寝つかれなかった。

 胸の鼓動は明らかに通常より早く、それがなかなか鎮まらない。いくら眠ろうとしても眠れず、それが数十分ほども続くと、だんだん苛々してくる。

 聖羅は心を落ち着けるべく、深呼吸をした。その時。

 かすかに、しゃくりあげる音と、ちいさな声がした。

「……おかあさん……」

 布団のなかに潜っているのか、その声はくぐもってちいさかったけれど。それでも聖羅はそれを聞き逃しはしなかった。

 耳を澄まさなければ聞こえないほどちいさく、押し殺した泣き声だった。

 起きていたとは思わなかった。こうしてひとり、夜毎この子は泣いていたのだろうか?

 レジスタンスで、「おかあさんなんかきらい!」と喚き散らして出て行ったと聞いていた、そしてこんなところでひとりで泣いているのか。

 自分には母を慕う気持ちがわからない。七都が恋うような、やさしい母を聖羅は持たなかったから。けれど、たとえばひとり、髪をほどきながら遠くにいる人を思う、そのときの自分と同じように。やさしかったひとの、やさしい記憶が、七都を捕らえて離さないのだろうか。

 泣き声がやまない。聖羅は逃げ出したくなった。おかあさん、と時折混じる声に、かなしみが滲んでいて、聖羅の胸が掴まれたようにぎゅっと痛んだ。

 いたたまれなくなり、もうこの部屋から出て行こうとベッドから起きあがる。けれどここから逃げ出そうという意志に反して、何故か聖羅は二段ベッドのはしごを登っていた。