教会では、百合子がずっと七都の帰りを待っていた。消灯の時間が過ぎても、食堂の明かりをつけてひとりで待っていた。聖羅は早々に部屋に引き上げて、けれど眠ることはできずにひとり起きていた。
七都はその晩遅くに帰ってきた。
聖羅は七都の帰ってきた気配と同時にベッドに潜り込む。
遠くでひとこと、ふたこと百合子と七都が話しているのが聞こえ、そしてすぐに足音は部屋に近づいてきて扉が開いた。
七都は真っ暗な部屋の中を見回して、狸寝入りしている聖羅を布団の中に見つけると、着替えもせずにそのままベッドのはしごを登っていった。そしてすぐに眠ってしまったのか、物音ひとつしなくなり起きている気配も消えた。
しばらくして、聖羅は音を立てぬように起きあがると、ベッドに座り、髪を手櫛で梳いた。かつては腰を覆うほどに長く長く伸ばしていた髪だった。くせのないまっすぐな栗色の髪の、毛先をつまんで、その長さを測る。ちょうど胸の下まで届くほどの長さになっていた。半年もすればずいぶんと伸びるものだ。
半年前。ここに辿り着いたときに、百合子に髪を切ってもらった。手当たり次第に短刀で切り落とした髪は、長さもばらばらでとても見られた状態ではなかった。長いところは腰にとどくほどまであり、いちばん短いところは肩の上あたりでぷっつりと切れていたが、それを百合子が丁寧に整えてくれた。その後も百合子がこまめに鋏を入れてくれたので、だいぶきれいに毛先の長さが揃ってきた。
開け放したままの窓のむこうに、星が瞬く夜空が見える。さわさわと、夜風に揺らされた木の、葉がふれあう音がした。
聖羅は目を閉じてもう一度髪を梳いた。そしてこうして、よく自分の髪を触る人がいたことを思いだしていた。ここに来て半年ほどが経った。その間、決して思いださないようにしていた人のことを。
何事にも心を空にして対すること。それが聖羅が、自分自身にに課したことがらのうちの、ひとつだった。かつて自分の意志が存在したがために為されてしまった、ある罪業をあがなうために、何に対しても自分の感情を、思考を持つことを、聖羅は自らに禁じていたのだ。
故にそのひとのことを思うことをしなかった。彼の存在が聖羅の心を大きく占めていただけに、それには努力が必要だった。
七都はその晩遅くに帰ってきた。
聖羅は七都の帰ってきた気配と同時にベッドに潜り込む。
遠くでひとこと、ふたこと百合子と七都が話しているのが聞こえ、そしてすぐに足音は部屋に近づいてきて扉が開いた。
七都は真っ暗な部屋の中を見回して、狸寝入りしている聖羅を布団の中に見つけると、着替えもせずにそのままベッドのはしごを登っていった。そしてすぐに眠ってしまったのか、物音ひとつしなくなり起きている気配も消えた。
しばらくして、聖羅は音を立てぬように起きあがると、ベッドに座り、髪を手櫛で梳いた。かつては腰を覆うほどに長く長く伸ばしていた髪だった。くせのないまっすぐな栗色の髪の、毛先をつまんで、その長さを測る。ちょうど胸の下まで届くほどの長さになっていた。半年もすればずいぶんと伸びるものだ。
半年前。ここに辿り着いたときに、百合子に髪を切ってもらった。手当たり次第に短刀で切り落とした髪は、長さもばらばらでとても見られた状態ではなかった。長いところは腰にとどくほどまであり、いちばん短いところは肩の上あたりでぷっつりと切れていたが、それを百合子が丁寧に整えてくれた。その後も百合子がこまめに鋏を入れてくれたので、だいぶきれいに毛先の長さが揃ってきた。
開け放したままの窓のむこうに、星が瞬く夜空が見える。さわさわと、夜風に揺らされた木の、葉がふれあう音がした。
聖羅は目を閉じてもう一度髪を梳いた。そしてこうして、よく自分の髪を触る人がいたことを思いだしていた。ここに来て半年ほどが経った。その間、決して思いださないようにしていた人のことを。
何事にも心を空にして対すること。それが聖羅が、自分自身にに課したことがらのうちの、ひとつだった。かつて自分の意志が存在したがために為されてしまった、ある罪業をあがなうために、何に対しても自分の感情を、思考を持つことを、聖羅は自らに禁じていたのだ。
故にそのひとのことを思うことをしなかった。彼の存在が聖羅の心を大きく占めていただけに、それには努力が必要だった。
