そのとき、扉の外から、遠慮がちに声がした。

「……七都」

 群青だ。追ってきたのだろう。

「……」

 七都はしばらくためらったあと、内側から扉の鍵をあけた。なぜだか群青にはこんな顔ばかり見られていると思った。

「七都……」

 群青は何か言おうとして、けれど何をどうしていいのかわからない、そんな顔をして立っていた。

「……入ったら?」

 涙でくしゃくしゃなままの顔で少し笑って、七都が言った。

「……うん」

 扉を閉めると、雨戸の隙間からはいる明かりだけが頼りの暗さになる。群青の表情が見えないので、七都は自分の顔も見えないだろうと安堵した。

「男の人にこんなことするの、悪いとは思うんだけど、私を女の子だと思わずにちょっとだけ、物だと思って肩を貸して……」

 そう言うと群青の返事も待たずに七都は、群青の肩に腕を回してしがみついた。

 突然のことに群青は慌てた様子だったが、それでもそっと背中を撫でてくれた。

「……こんなこと、他の人にしたらだめだよ七都、誤解される」

 そう群青が言うと、胸に顔をうずめたまま、七都が頷いた。

「わかってるわ、群青ならだいじょうぶだと思って」

 その妙な信頼はなんなのだろう、と群青は複雑に思った。

 この七都の行為にもちろん深い意味がないこともよくわかっていて、今自分は母と姉の代わりの布団のようなものなのだろうと群青は、きちんとそう理解しているつもりだった。

 なのにつむじしか見えない七都の頭を見下ろして、早まる鼓動が彼女に伝わらなければいいと思っていた。

「……来てくれてありがとう、群青」

 群青の背に腕を回したまま、七都が言う。凛々子の代わりになれなくてごめん、という言葉を群青は飲み込んだ。