『おかあさん!』

 七都が叫んで駆け出す。その腕を優花がつかんだ。

『七都……!』

 凛々子が振り返った。驚いた顔をして。

 母と自分のあいだに、炎の壁があった。それを如何にして超えればいいのかが、七都にはどうしてもわからない。絶望に包まれて、七都は涙を流した。それでも母のもとへ行きたかった。火の中に飛び込んででも。燃えてしまってもいいから、それでもどうしてももういちど、母に触れたくて、抱きしめてもらいたくて、七都は駆け出そうとした。

『七都……だめ!』

 優花が七都の手首をきつくつかんだ。七都はふりほどこうとしたけれど、優花は手を離さない。あまりにも強い力で手首をつかまれて、血の流れが滞った手のひらが、つめたくなってゆく。

『おかあさん、おかあさん!』

 今にも凛々子を炎が包もうとする。七都はふりほどけない腕を振り回し、狂ったように母の名を呼び、叫んだ。

 そのとき銃声が轟いた。優花が胸に七都の頭を抱き込んだ。

『おかあさん……!』

『見ないでいいの』

 視界を遮られ、何が起こっているのかがわからない。離して、そう叫んで優花の腕をふりほどいた七都は、凛々子が、胸の中心を手のひらで押さえて、糸の切れた人形のように炎の中へ倒れ込んだ、その瞬間を、見た。

 そう、確かに自分は見たのだった。