あれはつめたく、暗い夜だった。空は雲に覆われて、月のあかりはなかった。
久しぶりに帰ってきた凛々子が、たくさんのごちそうを作って、七都の誕生日を祝ってくれた夜だった。母が布団に入った七都の髪を、ずっと撫でてくれていた。しあわせな気持ちで眠りについた七都の夢は、ドアを叩く音で破られた。
何事かと起き出した七都は、母の姿がそこにないことに気がついた。優花が夜着の上に上着をかけて、玄関を開けた。
『凛々子は!?』
そこに立っていたのは由可だった。ずっと走ってきたらしく、肩で息をしていた。
『おかあさん、さっき眠るまではいたのに……』
『遅かった……ううん、まだ間に合うかも知れない』
由可が、すぐに出られるかとふたりに聞いた。ただごとではない空気を感じ、不安になりながら姉妹はうなずいて、着替えもせずに家を出た。
由可は走る道すがら、ふたりに事情を話した。赤い翼の魔女、と呼ばれる、第一都赤将軍に焼かれた一街と四街のこと。それが凛々子を捕らえるための作戦だったこと。凛々子の身柄を差し出さなければ、残るふたつの街も焼き討つと。それを凛々子が黙って見過ごせるわけがない。魔女に言われるままに出ていこうとする凛々子を、レジスタンスの人々が基地にとどめていたこと。
『……おかあさん、死んじゃうの?』
優花の袖をつかんで問う、七都の声が不安にゆれる。
『大丈夫よ』
答える優花の声は固かった。が、優花は七都の手を取り、ぎゅっと握ってくれた。
由可が、この辺りのはず、と、そう示した場所にたどり着くと、闇を照らすように赤く、激しく炎が燃えていた。熱にゆらめくその向こうに、凛々子はいた。見慣れた花柄の服の、裾が熱風にゆるがされていた。
久しぶりに帰ってきた凛々子が、たくさんのごちそうを作って、七都の誕生日を祝ってくれた夜だった。母が布団に入った七都の髪を、ずっと撫でてくれていた。しあわせな気持ちで眠りについた七都の夢は、ドアを叩く音で破られた。
何事かと起き出した七都は、母の姿がそこにないことに気がついた。優花が夜着の上に上着をかけて、玄関を開けた。
『凛々子は!?』
そこに立っていたのは由可だった。ずっと走ってきたらしく、肩で息をしていた。
『おかあさん、さっき眠るまではいたのに……』
『遅かった……ううん、まだ間に合うかも知れない』
由可が、すぐに出られるかとふたりに聞いた。ただごとではない空気を感じ、不安になりながら姉妹はうなずいて、着替えもせずに家を出た。
由可は走る道すがら、ふたりに事情を話した。赤い翼の魔女、と呼ばれる、第一都赤将軍に焼かれた一街と四街のこと。それが凛々子を捕らえるための作戦だったこと。凛々子の身柄を差し出さなければ、残るふたつの街も焼き討つと。それを凛々子が黙って見過ごせるわけがない。魔女に言われるままに出ていこうとする凛々子を、レジスタンスの人々が基地にとどめていたこと。
『……おかあさん、死んじゃうの?』
優花の袖をつかんで問う、七都の声が不安にゆれる。
『大丈夫よ』
答える優花の声は固かった。が、優花は七都の手を取り、ぎゅっと握ってくれた。
由可が、この辺りのはず、と、そう示した場所にたどり着くと、闇を照らすように赤く、激しく炎が燃えていた。熱にゆらめくその向こうに、凛々子はいた。見慣れた花柄の服の、裾が熱風にゆるがされていた。
