そのとき、わあっ、という怒号にも似た人々の声が沸き起こった。何事かと七都がその方向を見遣る。

「七都」

 群青が七都の腕を強く引いた。

「隠れて、近い」

 何が、とは七都も問わなかった。遠くにあると思っていた戦の場が、すぐ目の前に迫っていたからだ。

 七都の背筋につめたいものが走った。

 第七都で生まれ育ち、あらゆる争禍から遠ざけられていたわけでは決してないけれど、それでもその渦中にいたことはなかった。他人に剣を向けられたことなど一度もなかったのだ。

 母を戦の中で失いながらも、どこか遠いことのように思っていた、その現実が目と鼻の先で繰り広げられている。

 恐怖に近い感情はあった、けれど何故か七都は、逃げるのとは反対の方向に歩を踏み出してしまった。突如人波に巻き込まれて七都はちいさく声をあげた。

「七都!」

 群青が叫んで手をのばしたが、七都に届かない。

 戦場は混乱の最中にあり、もうもうと舞い上がる砂埃の中、敵味方とも距離を取ることもできなかった。

 浅はかだったかもしれない、と七都は思った。遠くからでもいいから戦場というものを見てみたいと、そんな気持ちでここまで来てしまった。誰かにむけて剣を揮えるほどの覚悟を決めたわけでもなく。

 けれど、母がどんなところで何をしていたのか、それをこの目で確かめたいと、その意志があったのも確かだった。

 七都は思わず立ちつくした。人と人が命のやりとりをする、その場の圧倒的な熱にのまれてしまいそうだ。

 飾りのようにただ持っていた形見の剣をしっかりと握り直して七都は、ひとつ大きく息を吸って、ともすれば震えそうな足に力を込めた。