風が強くなってきていた。ごう、と耳元で唸る風が、剣のぶつかり合う音と、ひとや馬の倒れる音、怒号や悲鳴、鬨の声、そんないろいろなものを七都の耳へと運んでくる。

 戦場を支配しているのは、得体の知れない熱だった。

 長い髪が風に吹かれて視界を遮る。七都は邪魔そうに、頬にぶつかる髪をはらった。

 戦が起きている中心へは行かない、ただその様子を見るだけだと念を押されて、七都は渋々頷いた。群青は、戦場になっているような場所を注意深く避けながら進んでいった。

 それでも足下には、戦というものがまき散らした破片が散っている。

 木の根元に倒れていた血まみれの男が、七都たちがそばを通ろうとしたときに、かすかなうめき声を上げた。七都が思わず振り返る。

「待って群青……この人、今何か言おうとした」

 七都がしゃがんで、男の言葉を聞こうとする。けれど彼はそれきり、目を閉じて黙ったままだった。まだ生きているのかどうかすら、七都にはわからない。

 鼓動が早くなる。胸が苦しかった。はじめてみる、戦というものの、これが現実か。

「……不思議」

 胸を押さえて立ち上がった七都は、すぐには歩き出せずにつぶやいた。

「みんな怖いと思わないのかな」

 厚い雲に覆われた、灰色の空の下。

 剣を振るい、殺し合う人と人。その身なりこそ違っても、敵も味方も同じ人間に違いないことが、一目見てもわかるのに。

「相手と自分が、同じ生き物だって、わかっていてやってるの?」

「……」

「あたしは怖い、だからとても、不思議」

 眼前に広がる、戦という光景をまっすぐな瞳で見つめている、七都の心のうちは群青には計り知れない。

 風が、乾いた塩の混じる大地を撫でてゆく。それが目に入り、浸みて痛みを感じた目を七都はこすった。

 拭った目尻は少し濡れていて、それが目に入った細かい塩の粒の所為だったのか、それともそうでなかったのかは七都にもよくわからなかった。